おかえり、はやぶさ

 2010年 6月13日。はやぶさが帰って来た。
 7年に及ぶ旅を終えて、地球に還って来た。

 数年前、「 [はやぶさ]今度いつ帰る 〜はやぶさ探査機〜」(←号泣注意)という一本の動画によって、 私は「はやぶさ」(MUSES-C)の存在を知った。
 この動画からもわかるとおり、はやぶさはとかく擬人化されやすい探査機である。
 数々のトラブルに見舞われながらも、小惑星イトカワから地球へ帰還しようとする彼を、 人々は親しみをこめて「はやぶさ君」と呼んだ。
 のみならず、JAXA が運営する Twitter では時々はやぶさ自身がツイートしていた。

 そんなはやぶさの帰還が確実になったと知った時、私はどれほど嬉しかったことか。
 けれど、彼が帰って来ると言うことは、すなわち大気圏で燃え尽きるということでもあるのだ。

 はやぶさが帰って来るのは嬉しいけれど、複雑……
 という思いを抱いたのは私ばかりではあるまい。おそらくは多くの人が思ったことであり、 現に小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」 もそう言っている

 はやぶさが帰って来るのは嬉しいけれど、複雑……
 そんな私の気持ちを慰めてくれたのは、夫の言葉だった。

 私たちは、遥か昔に砕け散った星の原子で出来ている。
 はやぶさは大気圏で燃え尽きるけれど、はやぶさを構成していた原子は地球に降り注ぎ、 本当の意味で地球に還る。
 大きく深呼吸をしたら、その吸いこんだ空気のなかには、はやぶさの原子がいくつか混ざっているかもしれない。
 実際、コップ一杯の原子を海にぶちまけ、海全体をよーく掻き混ぜてからコップで海水をすくうと、 その中には最初の原子がいくつかは入っている計算になるらしい。

 昨夜、夫とふたりで、オーストラリアからの はやぶさ帰還生中継を見た。
 真っ暗な闇の中ではやぶさは目映いばかりの光を放ち、消えていった。とても美しかった。

 再突入の約 3時間前にはやぶさが分離したカプセルは、無事に所在が確認された。今、これを書いている途中で 回収作業が始まった という発表が出たところだ。
 この中には小惑星イトカワのサンプルが入っていることが期待されているが、実際はどうかわからない。
 入っていない確率のほうが高いという話も聞くが、たとえサンプルが採取できていなかったとしても、 月より遠い天体に行って帰って来た史上初の彼の偉業に少しでも傷がつくわけではない。

 おかえり、はやぶさ。お疲れさま。
 はやぶさが最後に撮った地球の写真 を見ながら、大きく深呼吸をしてみた。

【関連サイト】

【再突入時の動画等】

2010.06.14