十年傘

 8月末に襲来した台風に、大事にしていた傘を壊された。
 10年以上も使った古い傘だけれども、誕生日に夫がプレゼントしてくれた物で、 もう一生これでいいやというくらい気に入っていたのだ。
 おちょこにされまいと、風上に向かって傘を前倒しにしたことが悔やまれる。

 しかし、タイミングのいいことに(と言うと語弊があるが)、 翌月には私の誕生日が控えていた。
 毎年、誕生日プレゼントは何がいいと夫に訊かれても、なかなか思いつかずに困っていたのだが、 おかげで今年は早々に決めることができてしまった。

 そして、9月のとある休日、私は夫と傘を買いに行った。
 傘売り場には、色とりどりの傘が並んでいた。
 色のみならず、素材も、骨の数も、長さも、実にバリエーションが豊富で、 どれにしようか目移り……しなかった。したかったけれども、しなかった。
 たくさんの中から私が気に入ったのは、たった一本の傘だった。
 それは、壊れた傘によく似ていた。

「これにする」
 言って、私は値札を見た。そこにはこう印字されていた。

『 \1980 』

「安ッ!」
 思わず、夫とハモってしまった。

 もちろん、プレゼントの価値は物の値段で決まるものではない。
 それはそうだが、しかし誕生日プレゼントに \1980 の傘ってのはどうなのよ。
 と、夫も思ったようで、もっと探してみることになった。

 別の店にも行ってみたが、しかし、生憎と気に入るものがない。
 一万円もする傘は、お願いだから勘弁してと言いたくなるような柄だった。
 ちょっと妥協して、これでもいいかなと思った傘は \1280 だった。更に安ッ!

 結局、最初に選んだ傘をプレゼントしてもらった。
 とても気に入っている。
 我ながら子どものようだが、雨が降るのが楽しみになった。
 また10年使えるよう、大事にしよう。もちろん、一生使えるなら、それに越したことはない。

2009.10.20