おいしい顔

 ペッパーランチのビーフペッパーライスが好きだ。
 大好物というほどではないが、ときどき無性に食べたくなる。
 そういう時は、夫を誘って食べに行く。

 熱々の鉄板で半生状態の肉に火を通しつつ、それを自らの手でご飯と混ぜて食べるのが、 ビーフペッパーライスのいいところである。
 これ以上ないというくらい出来たてを食べることになるわけだし、 何より、自ら肉を焼き、混ぜるという行為が楽しい。
 私も主婦のはしくれである以上、肉などしょっちゅう焼いている。 それでも、自ら焼いて混ぜるのが楽しくて仕方ない。これを考えた人は天才だと、混ぜながらいつも思う。

 前述したとおり、ビーフペッパーライスは熱々の鉄板に乗って出てくる。 だから、出来たて熱々を食べることができる。
 しかし、生憎と私は猫舌なのだ。
 よって、食べる時は出来たて熱々をこれでもかとフーフーする。
 更に、熱々の鉄板で熱々のご飯や肉を混ぜたスプーンもまた熱々であるから、 間違っても唇などに触れて「ぎゃ!」となることのないよう、慎重に口に運ぶ。
 当然、咀嚼も慎重に行う。

 そんな私を見て、夫は苦笑する。
 どう見ても嫌々食べているようにしか見えないのだそうだ。
 好きで食べていることをよく知っていてもなお、恐る恐るスプーンを口に運ぶ私を見ていると、
「無理して食べなくていいんだよ」
 と言いたくなるそうである。

 言われてみれば確かに、スプーンを口に運ぶ時、慎重になるあまり眉間に皺が寄ってしまっている気がするし、 食事の速度も通常の半分程度に落ちている。
 なるほど、これではいかにも食の進まない、嫌いな物を嫌々食べている人に見えても仕方ない。

 しかし、美味しいのだ。好きなのだ。人は見かけによらないのだ。

 とは言え、美味しいものはそれに相応しい表情で食べたほうがいいに決まっているので、 頑張って美味しそうな表情を作ってみようかとも思ったが、 おいしい顔ではなくおかしい顔になっている自分が簡単に想像できてしまったので、やめた。
 変な顔よりも嫌々食べる顔のほうがまだマシだろう。たぶん。

2009.08.30